【旅ブログ】スペイン|Kei 2016.05
旅の動機
台湾で20年近く専業主婦として暮らしていましたが、ある日突然配偶者が亡くなり人生をもう一度日本に戻ってやり直すことに決めました。が、長い間動きのない引きこもり生活を送っていたので、その前に何か”勢いあること”、思い切って前に進める何かが欲しいと思いました。
それが私にとっては旅でした。若い頃一番自分らしくイキイキと輝ける場が一人旅だったからです。その頃の感覚を取り戻せばまた新たな人生を始められる気がしました。それには単なる旅ではなく1か月かけて900キロを歩くというハードル高めの旅がいいと思いカミーノ巡礼旅に行くことを決意しました。
Episode.1
初日からいきなり宿無し?
ーー巡礼の旅はどこからスタートだったんですか?
Kei:私はフランスとの国境を越えたロンシェス・バージェスというところからスタートしました。4月末、マドリードは暖かかったのに夕方、始まりの巡礼宿に到着した時には雪が舞っていました。しかも、数百人が泊まれると言う近代的で設備が整っているという噂の宿は到着時すでに満杯!!
ーー巡礼に参加される方ってそんなにいるんですね!
Kei:そうなんです!その宿はスタート地点から最も近い場所にあり、初日はみんな同じようなペースで歩くため、到着のタイミングが重なるらしいんです。それで、あっち、あっちと促されたのは部屋どころか建物の外・・・えっ????と言う感じでした笑。
ーー雪降ってるんですもんね。
Kei:そんな私を含め、部屋がない人達が行けと言われたのは建物から外れた森の中でした。えっ??と一瞬目を疑いましたが森の空き地にコンテナを改造して、そこに古いパイプで作った2段ベッドが4つ設置されているというなんとも残念な部屋でした笑。トイレはあるにはあったのですが、別コンテナの中においてある感じのものでした。コンテナ部屋は人が出入りする度に寒気が入り込んできて、することと言えば寝るしかありませんでした。トイレに行くにもみぞれ交じりの中を歩くことになるのでトイレにも行きたくない。夕食は手元にあったお菓子で済ませ早々に寝袋に入りました。
ーーなかなかのスタートを切れましたね笑。
Kei:翌朝も引き続き天候が悪く、巡礼初日に道に迷ったら困るなと思い同室だった人が出発するタイミングで「途中まで一緒に行ってもいいですか?」と声を掛けました。まさかこの時の一言が巡礼旅の成り行きを大きく変えると、その時は全く予想していませんでしたが。
Episode.2
スピリチュアルな出会い
ーー2日目以降はどうでしたか?
Kei:歩きながら知ったのですが、カミーノ巡礼を目指す人の動機は本当にいろいろあります。
若い人は自分探しの旅かもしれませんが、私のような年齢になると人生皆それぞれ歩んできて見えない世界に関心のある人も少なからずいます。
私がコンテナで出会い、その後全行程を一緒に旅することになったスペイン人の2人がいるのですが、一人はアナと言い当時53歳で、テリエンテ県でペンションを経営している女性でした。イギリス人の御主人を病気で失くし、その後巡礼旅を経験して3回目の挑戦と言っていました。
もう一人のロサはその彼女と同じ年頃でアーティストをしていて、誕生日祝いとしてアナから、この巡礼旅をプレゼントされたから来たとのことでした。二人は性格が全く正反対で、その中に異質の私が加わって珍道中となったのですが、不思議なことに出会ってから間もないのに大変親しみが沸き、まるでずっと前から知っていたかのような感覚になるほどでした。前世でご縁があったのかもしれません。
ーーそれはコンテナがもたらした、一人旅だからこそ生まれた素敵な出会いですね!
Kei:彼女たちのおかげで巡礼が素敵な思い出になったので、本当にその通りです!
ーー巡礼ではどのような場所を歩くのですか?
Kei:巡礼も行程約半分を過ぎた頃に立ち寄った村は今も印象に残っています。そのローマ時代から続く村の一角には”心の病院”という、とても神秘的な品々が展示されている空間があり、驚いたことに般若心経の写経まで置いてありました。この建物から出てくる人は皆涙しているくらいで、人間の生き方、真理に関する言葉が並んでいる素敵な場所です。人の心が浄化される何かがあるのでしょう。
アナはインドに何度も通ったことがある精神世界に興味のある人で、一方ロサは植物や自然のことに大変詳しく、見えない世界を分かってからお互い言葉は通じなくてもジェスチャーを交えたら般若心経の世界観までわかってくれるくらいで、価値観が似ていました。だから一緒にいて気が楽だったと思います。
ーーそういうなんとなく居心地がいい人っていますよね。いくら長い時間をかけてもそうなれない人もいるから、そういう出会いを大事にすべきですね!
K:カミーノでは神秘体験をする人がいると言われています。私はこの心の病院があった村で更にもう二人の仲間と出会いました。一人は退職して息子さんから旅をプレゼントされたというイタリアおじさん。もう一人はアルゼンチンから孫の病気を救ってもらったお礼参りにと巡礼に来たという女性。二人とも60歳近くでしたがすこぶる元気な方々でした。この二人が加わったことであとの2週間の旅もより一層楽しいものとなりました。
Episode.3
最高のバースデー
ーー思い出に残っている出来事などはありますか。
Kei:はい、あります!ある朝巡礼宿で目覚めたらアナが私の部屋に入ってきて「風船を膨らませろ」と言うのです。何、何??と思っていたら、どうやらその日はロサの誕生日。膨らませた風船に次つぎと”お誕生日おめでとう!”と書いていました。
当の主役ロサはいつも寝起きが悪いのでまだぐっすり眠っていて、こっそりサプライズ準備をするのはもう子供に戻ったみたいでワクワク!でした。その後彼女の耳元で風船を割って目覚めさせ、二人で「お誕生日おめでとう!!」と言ってハグ。次に、アナが用意していたささやかなプレゼントを渡し、受け取ったロサは大感激!日本のように凝った包装もない、シンプルなアクセサリーでしたがアナの思いは十分に伝わったようでした。
朝からこんな調子で出発したのですが、その日だけロサは頭とリュックに風船をいっぱいつけて歩いたから目立つこと目立つこと!道行く巡礼者も風船に”お誕生日おめでとう”と書いてあるから気がついてあちこちでから祝福をくれました。なんてすばらしいアイデアなんだろう、そう思いました。
しばらくして別の仲間二人があとから追いかけてきて、ロサに道端の可愛い花で作ったブーケをうやうやしく、家来が女王様に渡すように捧げたから大笑いしてしまったのを覚えています。お金はかかってないけど、こんなに感動的できるプレゼント!があるんだー、やることがオシャレすぎる!とハートに響き、最高のお誕生日を一緒に過ごせました!
ーーアナの想いがすごく伝わってきて、話を聞くだけで幸せな気分になれました!そういう心の繋がった関係は、ちょっぴり羨ましささえ感じてしまいます。
Kei:改めて、最高の出会いでした。こんなひと時が積み重なって1か月経ち、別れの頃にはすっかり情が移ってしまい、ただの旅ではなくなっていました。同行した4人は生まれた国、生きてきた背景が異なる人生の先輩たちで、学ぶことが本当に沢山ありました。年上だからと言って堅苦しいことはなく、活力あふれ、茶目っ気があり、ユーモアがあって、歌あり踊りあり、喧嘩あり笑いあり、誰かが体調を崩せば皆で気遣って励まし合う仲間。
それぞれの個性が違うからこそ助けあい支え合って最後まで頑張ることができました。巡礼後は当初予定していた日程を変更してアナとロサの家まで遊びに行き数日滞在させてもらいました。スペイン人の”お宅拝見”も良い経験となりました。
私にとって旅とは
“スイッチONになり、ありのままでいられる時間”
私は日本社会には馴染みにくいタイプです。若い時は特に日本の常識や習慣に違和感を覚え孤立する性格でした。それが20歳で海外に初めて出てそれまでになかった自由な空気を感じたのです。誰も私のことを知らないから人目を気にしなくていい、型にはまらなくていい、そんな気軽さを体感し元々好奇心が旺盛なこともあって見知らぬ土地や文化を知る海外旅に魅せられていきました。
日本では息をひそめるようにほとんど外出もせず、家にいるのが好きという人間なのですが海外に出た途端、いつもスイッチが入ります。その変貌は極端なくらいで、いつもの反動なのか、ものすごく行動的になります。ありのままの自分にスイッチON!人見知りや遠慮することなく積極的に動き回れます。そして私の旅において観光は二の次。あらゆる瞬間が冒険で自分への挑戦です。見知らぬ、言葉がろくに通じない国でやりたいと思ったことを完了させ無事に帰ってくる、このミッションを果たすことが毎回冒険となります。小さな失敗を重ねても爽快な気分で帰国できた時、「あ、今回もできた、いろいろ経験して体感できた。自分でもやればできた!」と思うことができ自信アップ、自己肯定感がアップするのです。若い時は今ほど情報もなく行ってみないとわからない、そして若気の至りで多少無茶もしましたが、今は”命と健康あっての旅”と心得ているので年齢に合わせた旅を楽しんでいます。
最後にもう一つ。海外に出ると島国日本ではなかなか見ることのできないダイナミックでパワフルな絶景を体感することができます!地球の素晴らしさ、大自然の多様な造形を目の前にすると···ただその場に立っているだけで感謝の念が沸いてきます。海外旅は地球を身近に感じられる機会でもあります。