2024年6月13日から15日。私は一人、バックパックを背負ってバングラデシュの首都・ダッカに立っていた。
なぜ、ダッカだったのか。
「アジア最貧国」「人口密度世界一」「平均年齢20代」。
ネットや本で見かけるそんな情報を、自分の肌で、目で、確かめたかった。世界で最も過密で、最も若いエネルギーが渦巻く場所で、人々はどんな風に笑い、生きているのか。それを見ずにはいられなかったのだ。
空港で見つけた「自分の中の当たり前」

アライバルビザで入国した空港。見渡す限り、外国人は自分以外には中国人が数名程度。街を歩いていても、滞在中に出会った外国人はわずか1〜2人だった。
最初の試練は、配車アプリで呼んだタクシーを見つけることだった。アプリには車のナンバーが表示されるが、一向に見つけられない。よく見ると、車のナンバープレートの数字が、私が知る「ローマ数字」ではなかったのだ。
「数字は世界共通だ」という自分の中の思い込みが、旅の始まりに脆くも崩れ去った。世界には、自分の知らないルールがまだたくさん眠っている。その事実に、少しの戸惑いと大きな高揚感を覚えた。
5億円の邸宅と「Hello, Sir」の響き

今回、Airbnbで選んだのは市街地にある一軒家だった。
オーナー夫婦はカナダでビジネスを成功させ、故郷であるダッカに戻って新たな事業を営んでいるという。その邸宅は、現在5億円もの価値があるというから驚きだ。
一歩外に出れば、リキシャを懸命に漕いで日銭を稼ぐ人々がいる。オーナーが街を歩けば、多くの人が「Hello, Sir」と敬意を込めて声をかける。日本では想像もできないほどの大きな貧富の差が、そこには日常として存在していた。
ゴミの中の笑顔、レンズ越しの幸福論

ダッカ大学を卒業した現地ガイドに案内してもらい、街の深部へと足を踏み入れた。
凄まじい人の数と、発展途上国特有の道端に散乱するゴミ。環境としては決して恵まれているとは言えない。しかし、そこで出会う人々の表情は驚くほど明るかった。
カメラを首から下げていると、あちこちから「撮ってくれ!」と声がかかる。彼らは最高の笑顔でポーズを決め、撮り終えると満足そうに去っていく。
経済的には決して豊かではないかもしれない。それでも、彼らの瞳には迷いのない「今」を生きる力強さがあった。「幸せとは、経済的な豊かさと必ずしも比例するものではない」。そんな使い古された言葉が、生きた実感として私の心に深く突き刺さった。
甘すぎる日常と、火を食う体験

食事はやはりカレーが中心だ。
ランチの後、ガイドが連れて行ってくれたデザート屋さんは、不思議なことに客が男性ばかりだった。それも若者ではなく、おじさんたちが熱心に、脳が痺れるほど甘いスイーツを頬張っている。
さらに、現地の人が好んで食べる「ファイヤーパーム」にも挑戦した。文字通り火がついた状態で口に放り込まれるその食べ物は、なんとも言い難い不思議な味がしたが、「ここでしかできない体験」をしているという事実が、何よりも楽しかった。
旅の終わりに
わずか3日間の滞在。バックパックひとつで飛び込んだ混沌の先には、本や動画では感じることのできない世界が確かに存在していた。