※この記事では、執筆者の浦野を「祥吾」、創業者の井桁を「ハンさん」と呼び合っています。
2024年10月24日。私たちはフィリピンのマニラで合流した。 今回の旅もまた、行き先は決まっていない。バックパックのフィールドテストを兼ねて、好奇心だけを燃料に「とりあえず行ってみよう」と飛び出した冒険だ。
雨雲レーダーで見つけた「晴れ間」への脱出

しかし、マニラに着くと大型台風がフィリピン全土を襲っており、先1週間はずっと大雨の予報だった。 「このまま雨の中にいてもフィールドテストにならないし、何より楽しくないよね」 ホテルでハンさんと作戦会議を開き、雨雲レーダーを何度も更新していると、奇跡的に雨雲がかかっていない島を見つけた。それが、フィリピン南部に浮かぶ「サマル島」だった。
私たちはすぐに翌朝のダバオ行きの航空券を予約した。その夜、大雨の中ようやく手に入れたカップラーメンを啜りながら、「明日は晴れるだろうか」と期待を抱いて眠りについた。
輝く海と「5日間の歩き旅」の決意

翌朝、ダバオからフェリーに揺られて辿り着いたサマル島。バイクタクシーの熱烈な営業に歓迎された。 観光地化がほとんど進んでいないその島は、海が驚くほど透き通っている。その美しさに心を奪われた私たちは、ある無謀とも言える決断をした。 「5日間かけて、島を1周歩いてみよう」
バックパックひとつで知らない島を歩く。少しハードな距離ではあったが、その不自由さが、今の私たちには最高に贅沢な冒険に思えた。期待に胸を膨らませ、私たちは歩き始めた。
Nanaと漁師一家との出会い

道中、変わり映えのない一本道を2時間ほど歩き続けた頃、一人の女性が家から声をかけてくれた。彼女の名前はNana。 漁師の夫と息子の3人で暮らす彼女は、汗だくで歩く旅行者の私たちを見て、「何かしてあげられないか」と心配して声をかけてくれたのだという。
彼女は、旦那さんが持つ小さな漁船に乗せてくれると申し出てくれた。私たちはその厚意に甘えることにした。 エンジンの音が響くボートで、透明な海へと滑り出す。家の周りの海で泳がせてもらう時間は、都会の喧騒とは無縁の、静かで豊かなひとときだった。
「その日、必要な分だけ」を買う生活

「もしよかったら、料理も作ってあげるわ」 Nanaの申し出に、私たちはぜひにとお願いした。一緒に買い物へ行き、お米や油、そして新鮮なイカを買った。 そこで驚いたのは、彼らの買い物の仕方だ。日本のように数キロ単位でお米を買うのではなく、彼らはその日に使う分だけを小分けにして買う。まさに「その日暮らし」のスタイル。
彼らの家には屋根が一部しかなく、経済的には決して裕福な部類ではない。けれど、異国からの訪問者を心から楽しませたいという彼らの思いは、私たちの想像をはるかに超える温かさに満ちていた。
シンプルな料理が教えてくれた「幸せの尺度」

キッチンに並んだのは、炊き立ての白米と、油と塩、ガーリック、チリでシンプルに炒めただけのイカ。 お世辞抜きで、それは人生で食べたどの料理よりも美味しかった。
食卓を囲みながら、お互いの国のことや家族のことを語り合った。Nanaたちの夢は「今よりもっと大きな船を買うこと」だという。 彼らと一緒に過ごす中で、私は改めて強く感じたことがある。多くの人が自分の幸せを他人の尺度で決めているのではないだろうか、ということだ。
本来、幸せとは他人と比べて決めるものではなく、自分自身の尺度で決めるべきはずだ。情報社会となった今では簡単なことではないかもしれない。けれど、相対的ではない「絶対的な幸せ」を見つけることができれば、きっと彼らのように明るく、希望を持って毎日を生きていけるのではないか。
旅は生き方に影響をくれる

旅は美しい景色や出会いだけでなく、様々な生き方に触れるチャンスをくれる。 「今、自分の周りにあるものが全てではない」 それを知ることで、人生はさらに豊かになる。私たちはそんな素晴らしい旅を、これからも続けていきたい。
サマル島での冒険は、この温かな出会いから、さらに予期せぬ展開を見せることになる。
(後編へ続く)